大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(ネ)1554号 判決 1996年2月20日

控訴人

株式会社丸藤商事

右代表者代表取締役

遠藤専一郎

右訴訟代理人弁護士

石川隆

被控訴人

高島平マンション管理組合

右代表者理事長

海老原栄一

右訴訟代理人弁護士

塙悟

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、平成七年七月から毎月二五日限り金四万〇一一〇円及びこれに対する各月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のそのほかの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その一を控訴人の、その残りを被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  事案の概要

一  本件は、マンション管理組合である被控訴人が、組合員である控訴人に対して、管理費・修繕積立金の値上げ分(月額四万〇一一〇円)及び遅延損害金の支払い、控訴人の専用使用権についての使用料(月額一八万五〇〇〇円)及びその遅延損害金の支払い、控訴人が専用使用権に基づいて設置した物件の撤去と使用損害金(月額八万円)の支払い、控訴人の専用使用権の不存在の確認、並びに控訴人が駐車場として使用することの差し止め及び使用損害金(月額一〇万円)の支払いを求める事案である。原判決は、被控訴人の請求をすべて(ただし、遅延損害金についてはその起算日を一日繰り延べている。)認容した。

二  争いのない事実等

1  原判決別紙第三物件目録の一棟の建物(本件マンション)は、都営地下鉄三田線西台駅の至近距離にある一階が店舗、二階以上が住居で構成される住居及び店舗併用型マンションである。

2  控訴人は、昭和四八年に自己の所有地上に本件マンションを建築して、これを販売したものであるが、建築にあたり一階店舗においてサウナ等の営業をする目的で、建物の塔屋部分に広告塔を設け、看板、クーリングタワー、水槽、ボイラー等を設置し、敷地には八台分の駐車場を設定した(原審及び当審における控訴人代表者の供述)。

3  そして、控訴人は、二階以上の住宅を分譲するにあたり、「高島平マンション規約書」(旧規約)を作成したが、

その第六条には、(特定箇所の専用使用権)の見出しの下に、

「1 本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁の一部、屋上及び塔屋外壁の使用権は控訴人が保有する。

2  本敷地の使用権は控訴人が保有する。」との記載があり、

また、第二二条には、(規約の効力)の見出しの下に、

「この規約は、区分所有者の特定承継人及び建物専有部分の占有者に対してもその効力を有する。」との記載があり、

そして、第二一条には、(規約の改廃)の見出しの下に、

「この規約の改廃は区分所有者の全員の書面による合意により行う。」との記載がある(乙一)。

4  本件マンションの各室を購入した区分所有者は、購入にあたり、旧規約の各条項を了承する旨の文言のある規約書に署名押印した(乙一)。

5  右の専用使用権に基づく、控訴人の使用状況は、次のとおりである(当審における控訴人代表者の供述)。

(一) 昭和四八年以降本件マンションの敷地の一部である原判決別紙第一物件目録一、二記載の土地を控訴人と一階店舗の来客用の駐車場(同目録一の土地を南西側駐車場と、同目録二の土地を南側駐車場という。)として専用使用

(二) 昭和四八年以降原判決別紙図面二に図示する本件マンション屋上の塔屋の東、西、南、北に面した各外壁にそれぞれ縦2.5メートル、横5.5メートルの「サウナ」と表示したネオン看板各一枚合計四枚を設置して、右塔屋外壁を専用使用

(三) 昭和四八年以降原判決別紙図面三に図示するとおり、本件マンション屋上にサウナ用クーリングタワーを設置して右屋上部分を専用使用

(四) 昭和四八年以降原判決別紙図面二に図示する本件マンション二階西偶の屋上(二〇六号室の屋上)に、サウナ用水槽二個を設置して、右二階屋上を専用使用

(五) 遅くとも平成四年以降原判決別紙図面二に図示する本件マンション北東角に存する非常階段二、三、四階の各踊り場東側に支柱を設置し、縦八メートル、横0.8メートル、厚さ0.3メートルの両面にそれぞれ「サウナ西台」「コインランドリー・ウエスト」「理容・ハイツ」と表示する看板を設置して、右部分を専用使用

(六) 昭和五二年頃以降本件マンションの敷地の一部である原判決別紙第一物件目録三記載の土地(本件マンション北側土地)に、原判決別紙第二物件目録一記載のボイラー、石油タンク、クーリングタワーを設置して、右土地部分を専用使用

(七) 昭和五六年頃以降本件マンション北側土地に原判決別紙第二物件目録二記載のコインランドリー用水槽等を設置して、右土地部分を専用使用

6  被控訴人は、平成元年一〇月二九日設立された(甲一、六の一ないし三)。

7  被控訴人は、平成元年一〇月二九日、出席組合員と議決権総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三三人、総持分で2063.922平方メートル中の1609.145平方メートル)により、次のとおりの内容を含む「高島平マンション管理規約」(新規約)を決議をした(甲一、六の一ないし三)。

(一) 店舗部分の区分所有者は、本建物のうち広告物その他の施設の設置のための外壁及び屋上の一部と塔屋外壁、敷地の専用使用権を有することを承認する。

(二) 右専用使用権を有している者は、総会の決定があった場合は、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。

(三) 右専用使用部分の変更については、管理組合の承認が必要である。また総会の決定によって専用使用部分を変更することができる。

8  被控訴人は、平成四年一〇月一八日開催の平成四年度定期総会において、出席組合員と議決権総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三四人、総持分で2063.922平方メートル中の1661.705平方メートル)により、控訴人の専用使用権について次のとおり決議した(以下「本件決議」という。)(甲二)。

(一) 南西側駐車場は、管理用自動車、緊急用自動車の駐車場及び区分所有者全員の自転車置場にするために、平成四年一二月三一日をもって、控訴人の右駐車場部分の専用使用権を消滅させ、控訴人は平成五年一月一日以降南西側駐車場の専用使用をしないこととし、かつ、右使用差止めに至るまで控訴人は使用損害金として月額一〇万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(二) 南側駐車場については、控訴人の専用使用権を認めるが、控訴人は平成五年一月一日以降右使用料として月額一〇万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(三) 塔屋外壁については、控訴人がネオン看板を設置して専用使用することは認めるが、控訴人は平成五年一月一日以降右使用料として月額四万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(四) 本件マンション屋上については、控訴人がサウナ用クーリングタワーを設置して専用使用することを認めるが、控訴人は平成五年一月一日以降右使用料として月額一万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(五) 本件マンション二階西側の屋上(二〇六号室の屋上)については、控訴人がサウナ用水槽二個を設置して専用使用することを認めるが、控訴人は平成五年一月一日以降右使用料として月額二万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(六) 本件マンション北東角に存する非常階段二、三、四階の各踊り場東側については、控訴人が支柱を設置し「サウナ西台」「コインランドリー・ウエスト」「理容・ハイツ」と表示する看板を設けて専用使用することは認めるが、控訴人は平成五年一月一日以降右使用料として月額一万五〇〇〇円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(七) 本件マンション北側土地については、控訴人は、この上に設置した原判決別紙第二物件目録一記載のボイラー、石油タンク、クーリングタワーを平成四年一二月三一日限り撤去する。同日までに撤去しない場合には、平成五年一月一日以降右撤去に至るまで使用損害金として物件一個につき月額二万円合計六万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

(八) また、本件マンション北側の土地について、控訴人は、この上に設置した原判決別紙第二物件目録二記載のコインランドリー用水槽を平成四年一二月三一日限り撤去する。同日までに撤去しない場合には、平成五年一月一日以降右撤去に至るまで使用損害金として月額二万円を毎月二五日限り翌月分を被控訴人に支払う。

9  被控訴人は、平成四年一〇月一八日開催の右総会において、出席組合員と議決権総数の四分の三を越える賛成(組合員数で三五人中三四人、総持分で2063.922平方メートル中の1661.705平方メートル)により、管理費と修繕積立金を次のとおり値上げすることを決議した(甲二)。

(一) 値上げ額

管理費 一平方メートル当たり月額一五〇円から二〇〇円に

修繕積立金 一平方メートル当たり月額五〇円から一〇〇円に

(二) 実施時期 平成五年一月一日から

(三) 支払期日 毎月二五日限り翌月分払

10  右決議によると、控訴人が平成五年一月一日から支払うべき管理費・修繕積立金の総額及び値上額は、次のとおりである。

(一) 管理費

(1) 一階店舗(原判決別紙第三物件目録一記載の建物)分

総額七万〇四六〇円、値上げ分一万七六一〇円

(2) 二〇五号室(原判決別紙第三物件目録三記載の建物)分

総額五七〇〇円、値上げ分一三五〇円

(3) 二〇六号室(原判決別紙第三物件目録二記載の建物)分

総額四三〇〇円、値上げ分一〇七〇円

(二) 修繕積立金

(1) 一階店舗分

総額三万五一二三〇円、値上げ分一万七六一〇円

(2) 二〇五号室分

総額二八五〇円、値上げ分一四〇〇円

(3) 二〇六号室分

総額二一五〇円、値上げ分一〇七〇円

以上によると、控訴人の管理費、修繕積立金のうち値上げ分は、合計月額四万〇一一〇円となる。

11  控訴人は、控訴人の管理費、修繕積立金のうち右の値上げ分について、平成五年一月分より平成七年六月分までを遅延損害金を含めて平成七年六月二九日に被控訴人に支払った。

三  争点

1  旧規約改定の手続

旧規約から新規約に改訂するには、旧規約に定めるとおり書面による区分所有者全員の合意が必要か。

2  本件マンション北側土地の専用使用権の有無

控訴人は、本件マンション北側土地について専用使用権を有するか。

(控訴人の主張)

控訴人は、旧規約に基づき本件マンション北側土地につき専用使用権を有する。

(被控訴人の主張)

本件マンション北側土地は、本来管理人室へ通じる裏通路として設けられたものであり、防災上も物件を設置することは許されない。旧規約によっても本件マンション北側土地は控訴人が保有する専用使用権の対象たる「敷地」に含まれないというべきである。

3  専用使用権の無償性の有無

旧規約による控訴人の専用使用権は、無償のものか。

4  特別の影響の有無

控訴人の専用使用権を消滅させ、または有償とする新規約及び本件決議は、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではなく、控訴人の承諾なくしても有効か。

(控訴人の主張)

控訴人は、旧規約に基づき、本件マンションのうち広告物その他の施設の設置のための外壁の一部、屋上及び塔屋外壁及び敷地につき無償の専用使用権を有するものである。しかるに、旧規約を変更した新規約と新規約に基づく本件決議は、控訴人の外壁等の専用使用権を有償化し、かつ、敷地の専用使用権を剥奪するものであって、控訴人の右専用使用権に特別の影響を及ぼすものであるから、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)三一条の規定により控訴人の承諾を要するところ、控訴人はこれを承諾していない。したがって、新規約は無効である。

(被控訴人の主張)

旧規約を新規約に変更すること及び新規約に基づき本件決議をすることは、以下に述べるとおり、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではないから、控訴人の承諾を得なくても有効である。

(一) 新規約は、旧規約に基づく控訴人の専用使用権の継続を認めている。もっとも、新規約は、「専用使用部分の変更」については管理組合の承認を得るものとし、また総会の決定によって専用使用部分の変更ができる旨の条項を設定したが、これは本件マンションの外観上又は維持管理上不都合が生じる場合に、使用部分の変更を管理組合の承認にかからしめ、又は総会決議によって使用部分の変更を請求できるとしたものであって合理的な条項であり、しかも控訴人の右専用使用権自体を失わせるものではないから、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

(二) 新規約では、総会の決定があった場合には、管理組合に「専用使用料」を納入しなければならないことになったが、これも控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではない。すなわち、控訴人は、旧規約下において専用使用料を一回も支払わなかったが、旧規約によっても無償で専用使用できるとの定めはなく、有償か無償かはっきりした定めがなかったのであって、この点については規約は不備であった。また、控訴人は右専用使用部分を使用するについて当初権利金・専用使用料等名目のいかんを問わず金銭を支払ったり、また専用使用部分の公租公課の全額を負担するなど特別な負担をしたことが一切なく、かえって、他の区分所有者が控訴人の専用使用部分の公租公課・維持管理費を共有持分によって平等に負担してきた。控訴人が無償で専用使用できるとする合理的根拠は全くないのであって、専用使用料を納入しなければならないとの定めは、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

(三) 本件決議(一)は、南西側駐車場について、管理用自動車、緊急自動車の駐車場、自転車置場として他の区分所有者の使用に供するために控訴人の専用使用権を消滅させることを内容とするものである。現状では、控訴人が本件マンションの敷地のうち空地となっている部分を駐車場として専用使用しているため、他の区分所有者が利用できる駐車場は全くなく、一台の自転車を置く場もない。他の区分所有者は、外の駐車場を借り、また自転車は防災上問題があることを承知しながらマンション内に持ち込み廊下に置いている状態である。また、管理や補修のために業者を呼んでも車を置くところがなく、路上駐車せざるを得ない。このような不都合を解消するために被控訴人は再三控訴人に右四台分の駐車場部分を管理組合に返還するように求めたが、控訴人はこれを拒否してきた。したがって、本件決議は、区分所有者全体にとって高度の必要性があってなされた決議であり、他方控訴人は右駐車場を失ってもマンション南側に四台分の駐車場が残るのであるから、控訴人に不利益があるとしてもいまだ特別の影響を及ぼすときには当たらないというべきである。

(四) 本件決議(二)ないし(六)は、いずれも控訴人の専用使用を認めた上で使用料納入についての決議であり、かつその額も社会通念上相当な額というべきであるから、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではない。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する管理費・修繕積立金の値上げ分及び遅延損害金の請求は、控訴人の既払分を除き理由があるが、被控訴人の控訴人に対する専用使用権についての使用料及びその遅延損害金の請求、控訴人が専用使用権に基づいて設置した物件の撤去及び使用損害金の請求、控訴人の専用使用権の不存在の確認請求、並びに控訴人が駐車場として使用することの差し止め及び使用損害金の請求は、いずれも理由がないものと判断する。

その理由は次のとおりである。

1  旧規約改定の手続

控訴人は、旧規約から新規約に改訂するには、旧規約に定めるとおり書面による区分所有者全員の合意が必要であると主張する。しかし、昭和五八年改正の建物の区分所有等に関する法律三一条一項(昭和五九年一月一日施行)によると、規約の改正は、同条の特別決議によりすることができるのであるが、この規定は強行規定であって、旧規約にそれと異なる規定がある場合にも、規約の改正を同条の特別決議によりすることができるものと解される。したがって、同条の規定によって行われた規約の改正は、区分所有者全員の合意がないことのゆえに無効とされることはないものである。

2  本件マンション北側土地の専用使用権の有無

被控訴人は、本件マンション北側土地は、本来管理人室へ通じる裏通路であって、旧規約によっても本件マンション北側土地は、控訴人が保有する専用使用権の対象たる「敷地」に含まれないと主張する。しかしながら、本件マンション北側土地が、本件マンションの敷地の一部であることは否定できないから、旧規約によると控訴人の専用使用権が認められるべきものである。もっとも本件マンション北側土地が被控訴人の主張するごとく管理人室などへの通路に利用されるべき土地であることも事実であるから、控訴人の専用使用権は、そのような通路としての利用と抵触しない範囲についてのみ認められるべきものであること(マンション建築当時のように電気室に大型機械を搬入するなどの必要があれば(甲二七及び当審における被控訴人代表者の供述参照)、控訴人は搬入が可能なように協力するなどの義務があること)はいうまでもない。被控訴人が当審で提出する証拠は、右の認定判断を左右するものではない。

3  専用使用権の無償性の有無

乙一号証の旧規約には控訴人の専用使用権の有償・無償に触れた文言がないが、当審における控訴人代表者の供述によれば、控訴人は無償であることを前提に規約を作成したものであり、また、当審における控訴人及び被控訴人代表者の供述によれば、昭和四八年に本件マンションが建築されて以来控訴人及び一部の区分所有者に専用使用権が認められてきたが、そのいずれもが長年にわたり無償の取扱を受けてきたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。右に認定した事実によれば、控訴人の専用使用権は、無償のものとして設定されたものと認められる。

4 特別の影響の有無

被控訴人は、控訴人の専用使用権を消滅させる決議は、控訴人の権利に特別の影響を及ぼすものではなく、控訴人の承諾がなくても有効であると主張する。

しかしながら、前記争いのない事実等を前提に判断すると、本件の専用使用権は、分譲の際に分譲者に留保された権利であり、共有者間で共有物の使用方法として合意されたものとして、債権的なものではなく、物権的なものであると考えられる。そのことは、旧規約の第二二条に規約の効力として、「この規約は、区分所有者の特定承継人及び建物専有部分の占有者に対してもその効力を有する。」と規定されていることにも表れている。そして、前記争いのない事実等を前提とすると、本件専用使用権の設定は、分譲者が本件区分所有建物の一階部分で行う商業活動の用に供することにあったものと認められるのであり、したがって、その設定の趣旨の中には、本件区分所有建物の一階部分で行う商業活動が継続される限り、その需要に応えて、専用使用を認める趣旨が含まれていたものと考えられる。

ところで、このような専用使用権でも、これを消滅させる規約の改正がすべて専用使用権者に特別の不利益を与えるかどうかは確言できない。しかし、本件専用使用権が右のように物権的な性質を有し、かつ、本件区分所有建物で行われる商業活動の用に供するものとしてその活動の継続する限り効力を有するものとして設定された経緯からみるならば、少なくとも、その専用使用権の存続の利益を上回る区分所有者の共同生活上の利益が認められないにもかかわらずこれを廃止するのは、専用使用権者に特別の不利益を与えるものといわざるを得ない。したがって、そのような場合に専用使用権者の同意なくしてこれを廃止する旨の規約改正をしても、その改正は効力を生じないものとみるべきである。

そして、被控訴人は、本件における区分所有者の共同の利益として、区分所有者の自動車置き場や自転車置き場さらには管理や補修のために呼ぶ業者のための自動車置き場の必要性を主張し、そのためには南西側駐車場の控訴人の専用使用権を廃止すべきものとしている。しかし、証拠(甲一七、二〇、二三、当審証人森脇益子の証言(その一部)、原審及び当審における控訴人代表者の供述)によると、被控訴人のいう自動車置き場や自転車置き場は、そのいずれもが、本件区分所有建物が分譲されて以来存在しない状態のままで経過してきており、その後にこれらの置き場に関する事情に変更があったとは認められない。すなわち、居住者のための駐車場の必要は分譲当初からあったが、本件マンションは居住者のための駐車場がない前提で分譲され、居住者は、分譲直後から他に駐車場を求めてきたのであって、このような状況は分譲後現在まで変化はない。そして、本件マンションの敷地のうち控訴人の営業用の駐車場を除いた部分に自転車を置く余裕があるが、多くの居住者は自転車の盗難等を考慮して、これを自己の居宅部分の前に置くものが多い実情にあって、このことは分譲直後から変化はない。そして、本件マンションに来る業者の車は、控訴人の営業用駐車場が昼間空いていることが多いことから、必要があればそこで駐車しており、特に業者用の駐車場を設けなければならない必要はなく、このことも分譲直後から変化はない。以上のとおり認められ、そうだとすると、被控訴人の主張する区分所有者の必要性が、商業活動上駐車場を必要とする控訴人の利益を上回るものということはできない。したがって、被控訴人が控訴人と協議の上、双方の利害の調整をはかり、控訴人の専用使用権の放棄を受けるのであれば格別、そのような利害の調整を経ないまま、規約の改正によってこれを消滅させることはできないものと解される。

そして、被控訴人は、控訴人の専用使用権について有償とする規約の改正も、控訴人に特別の不利益を与えないと主張する。しかし、証拠(原審及び当審における控訴人代表者の供述)によれば、本件マンションの維持運営に要する費用については、管理費や積立金として徴収する仕組みであり、被控訴人は、控訴人に対して相当の負担を求めてきたことが伺われるのであって、そのような負担を前提としてみるならば、控訴人の専用使用権は全くの無償というものではなく、相応の経済的な負担のもとで維持されてきたものと認められる(そのことは二階以上の区分所有者が利用する貯水槽の設置についても同様であって、この貯水槽の設置について二階以上の区分所有者は共有部分の利用料金を支払っていないが、管理費・積立金という経済的負担をしているのである。)。そのような経済的な負担のもとで認められてきた権利について、さらにこれを有償として利用料金を徴収することが控訴人に不利益を与えることはいうまでもないことであり、そのような利用料金を徴収する旨の規約を改定するには、控訴人の承諾を要するものといわねばならない。被控訴人は、控訴人の管理費や積立金の負担が不十分であると主張するが、そのような問題が仮にあるとしても、それはそれらを公正に負担させることにより解決すべき事柄であり、新たに控訴人に利用料金を支払わせる根拠とすることはできない。

以上の次第で、この点に関する被控訴人の主張はいずれも採用することができない。

5  結論

以上の検討の結果によれば、平成四年一〇月一八日開催の被控訴人の総会においてされた管理費と修繕積立金の値上げの決議は有効であるが、同日の総会において控訴人の専用使用権についてされた本件決議はいずれも無効であるといわねばならない。

ところで、控訴人が管理費と修繕積立金の値上げ分のうち、平成七年六月分までを遅延損害金を含めて被控訴人に支払ったことは当事者間に争いがないから、控訴人が支払うべき値上げ分は平成七年七月以降の分となる。

それゆえ、被控訴人の控訴人に対する管理費・修繕積立金の値上げ分及び遅延損害金の請求は、控訴人の既払分を除き理由があるが、被控訴人の控訴人に対する専用使用権についての使用料及びその遅延損害金の請求、控訴人が専用使用権に基づいて設置した物件の撤去及び使用損害金の請求、控訴人の専用使用権の不存在の確認請求、並びに控訴人が駐車場として使用することの差し止め及び使用損害金の請求は、いずれも理由がないものである。

なお、本件マンション北側土地上に控訴人が設置した原判決別紙第二物件目録一記載のボイラー、石油タンク、クーリングタワー並びに原判決別紙第二物件目録二記載のコインランドリー用水槽は、控訴人が専用使用権に基づき置いているもので、これらは不法に占有しているとはいえないが、本件マンション北側土地の通路としての利用と抵触することとないよう、控訴人は、通行者の安全に配慮すべき義務があることはいうまでもない。

二  以上のとおりであって、被控訴人の請求をほぼ全面的に認容した原判決は不当であるから、これを変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官篠田省二 裁判官淺生重機 裁判官杉山正士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例